■プロローグ

季節は夏。

男は宿の予約をしていた。

その宿は人里離れた田舎町……秘境と言っていいほどの山間にあった。

避暑をするのは毎年ここだと決めており、今年もまた泊まりに来たのだった。

時刻は夕方、蝉の声はまだ忙しなく響いておりぬるい風が頬をなでる。

宿に着き門を潜ると縁側で見慣れない女性がブラブラと退屈そうにしていた。

【菊】
「あら、いらっしゃい。当宿に何か御用ですか？　……ほぉ、あなたがご予約の旦那様でしたか。これはこれはお初にお目にかかります」

【菊】
「私は菊です。お菊とでも呼んでください。今日来られるとのことで、ずぅっと待っていたのに来られないから予約をブッチしたのかなぁ、なぁーんて思っていました」

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